2014年2月6日木曜日

レイ・ブラッドベリ「10月はたそがれの国」(創元SF文庫)レビュー

 クーンツの読書マラソン、46冊目はレイ・ブラッドベリ「10月はたそがれの国 (創元SF文庫)」です。

10月はたそがれの国 (創元SF文庫)

 SFで知られるブラッドベリですが、初期の短篇集を改訂しただけあってホラーとファンタジーに寄っています。
 タイトル通り10月に読むべき本でしょう。どの作品も季節感に溢れています。

 前半は、骨の痛みから胡散臭い医者の助言を聞いて以来骨格と分離しての闘いを繰り広げる「骨」、「小さな殺人者」「次の番」など、「だから言わんこっちゃない」式のホラーが多くを占めます。後半になるにつれてテンションが上がっていく印象です。今回は後半を中心に印象に残った作品を挙げていきます。

マチスのポーカー・チップの目
 「世界で最も退屈な男」ジョージ・ガーヴェイ。彼が芸術家のグループからひょんなことから注目されて、平凡な生活に彩りが加わる。しかしその注目も所詮は気まぐれからの産物であり、芸術家の興味も次第に他に移っていく。飽きられる事を拒んだガーヴェイがとった手段とは……
 他人から面白がられる人が、自分で狙って面白いことができるとは限らない。現代においても、ツイッターやネット生放送などで過激なパフォーマンスで耳目を集めようとした結果、エスカレートして重大な事件を起こしてしまう例は枚挙に暇がありません。非常に身につまされるとともに、1955年の時点でこれを書いたブラッドベリの慧眼には感嘆するばかり。

大鎌
 農夫、ドルー・エリックスンは一家を載せてドライブしていたが、車がガス欠で止まってしまう。泊めてもらいに農場に入ると老人が片手に稲穂を携えて死んでいた。中には飢えに困らないだけの食料があり、傍らの大鎌には<<我を支配するものは──この世を支配する!>>と刻まれている。老人の遺言に書かれている通り、とある仕事を引き継ぐことを条件に男は穀物畑を譲り受けるのだが?
 まるで童話のよう。日本にもロウソクの長さがそのまま寿命となる昔話がありますが、この話の場合は男が刈る稲穂こそが命なのです。自分のやっていることの意味に気がついてしまったドルーはも仕事を投げ出しますが、ある日火事の煙に巻かれてなお生き続ける抜け殻と化した妻と子の姿を目撃してしまいます。おそらく世界中の人々も同じように死を待っている。ドルーが刈らなければ永久に生き続けるでしょう。誰かがやらなければならない仕事なのです。ドルーが覚悟を決め、大きな歯車の中に組み込まれたかのように一心に鎌を振るうシーンの壮絶さは挿絵がなくとも情景がありありと浮かんできます。

アンクル・エナー
 背に羽の生えた男と人間の女性のラブ・ロマンス!
 人目を避けて夜の飛行を楽しんでいた彼は、ヨーロッパ旅行の途中の酔っぱらい飛行で電線に引っかかり感電。感覚器官を失い夜間の飛行ができなくなってしまいます。墜落した先で助けてもらった女性と結婚し、再び空を飛ぶことを夢見てくすぶっていた男に子どもが示した道筋とは?
 ブラッドベリの読後感は後味の悪いすっきり爽やかに二分されるのですが、これは後者。飛行シーンの爽快感は読んでいる自分まで空を飛んでいるよう。


 人間を襲い、その命を自身に取り込む風と人間の闘いを描いた作品。
 普通の作品なら風と闘うアリンの視点で話が進むのでしょうが、この話はアリンの話を電話で耳を傾けるトンプソンの視点で固定されています。最初から最後まで電話を通して間接的に事件を描き出しているのです。
 果たしてアリンの闘いはどうなったのか、「風」は実在するのか、それとも全てただの妄想なのか、最後まで分からない緊張感を与えています。最終2ページの寂寥感はブラッドベリならでは。

二階の下宿人
 ダグラス少年の下宿にやって来たコーバーマンさんは銀貨の代わりに銅貨を持ち歩き、銀食器を決して使わない。彼は昼の間はぐっすりと眠り、夜の間だけどこかに出かけていく。一方で街なかでは体中に刺青を施された女の遺体が発見され……
 この時点で吸血鬼ものだということは察しがつくとは思いますが、私が今まで読んだヴァンパイアものの中でも屈指のシュールさです。ヤツの眠る部屋への緊張感ある突入シーンを越え、ダグラス少年が祖母に「内容物」を意気揚々と見せつける辺りで不条理感はピークに達します。いやはや、一番不気味なのは少年の思考回路なのでは。

ある老母の話
 死を受け入れることを拒否し、結婚もせずに好き勝手に生きているティルディ伯母の元に黒服の青年がやってくるが……
 最も読んでいて気持ちいい作品の一つ。死神の思惑さえもぶち破る強引さ、身体のコントロールを取り戻していくシーンの爽やかさ、最後の1ページの明るさは元気を与えてくれるでしょう。
 不気味で後味の悪い作品も多いブラッドベリですが、時々こういうぶっちぎりのホームランを放り込んでくれるのでやめられません。

集会
 アンデッドの一族の中で人間として生まれてしまった少年の話。ハロウィン・ソングを聴きながら読みたいですね。
 一家の中でのけ者にされていると感じているティモシーに道を示してくれるエナー叔父さんはエンクルー・エナーのエナーと同一人物なのでしょうか?

ダッドリー・ストーンのふしぎな死
 流行作家、ダッドリー・ストーン。次の作品に行き詰っていたある日、彼の成功を妬んだ親友が殺しにきて……
 何もかも放り投げて豊かな生活を送る、筆を折った作家。断筆こそが恩恵との彼の考え方を合理化と切って捨てることもできるのですが、こちらのレビューを読んではっとさせられるものがありました。
終わらない。生きている限り。そこからどんな素晴らしい人生も創り出せる。未練こそ敵だ。
何事も心の持ちようという当たり前でも見落としがちな結論が、ブラッドベリらしい、豊かな生活へのあこがれと郷愁をもって描き出されていることが分かりますね。
 「集会」「びっくり箱」「みずうみ」の三作品は少女漫画の大家・萩尾望都によるコミカライズ「ウは宇宙船のウ」にも収録されています。こちらも面白いですよ。

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