2014年2月8日土曜日

ダシール・ハメット「影なき男」レビュー

 クーンツの読書マラソン、48冊目はダシール・ハメット「影なき男」です。
影なき男
 1930〜40年代に活躍したハードボイルド作家の中でもトップに立つダシール・ハメットの最後の長編です。
 その文体にはSFのような優美さや壮大さはありません。ハードボイルド式の贅肉が極限まで削ぎ落とされた文体はそっけなさ・味気なささえ感じる程です。しかし文章に地力があるせいか不思議とすいすいと読めてしまいます。
 アメリカの作家、ディーン・クーンツも「ベストセラー小説の書き方」の中で次のように絶賛し、彼の全作品を読むように勧めています。
ハメットの作品は、時の試練に耐え、われわれが死んだあともずっと読み続けられるだろう。
プロットは典型的なフーダニット(Who Done It ?)式。とある発明家・ワイナントの秘書ジュリアが殺され、ワイナントは行方不明に。当然ワイナントが第一容疑者ということになりますが、挙がった証拠や変わりゆく状況から矛盾が見つかり……その過程で探偵を引退した主人公にも疑いが掛けられ、嫌々ながらも警察とは付かず離れずの関係を保ちつつ独自に捜査を進めていくことになります。
 主人公の一人称で進んでいく捜査の描写は、ハメット自身が探偵として活躍していただけあってとてもリアルです。
 キャラクター同士の軽妙な会話もまた魅力。常に酒を入れている酔っぱらいの主人公は聡明で愛らしい妻の助けを借りつつ
 言うことが二転三転しまるで信用ならないミミ・ヨンゲルセン夫人、
 ミミと対立し主人公の家に転がり込む家出少女ドロシー、
 知りたがりな変人少年ギルバート、
 などを交えて酒場での交流などから手がかりを引き出していきます。バーや個人的な話し合いの際に何度も出てくるグラスの描写は読んでいる読者の鼻にまでアルコールの匂いが漂ってくるかのよう。「酒」という漢字だけで50回は出てきます。前回のタウ・ゼロをぐいぐい引っ張っていくと表現するなら、影なき男は軽妙な会話で押し転がしていく文体と言えるでしょう。
 別に酒を呑んでばかり要るわけでもなく、捜査が進む内に主人公がならず者から銃撃を受けたり、死体が増えていくなど緊張感を保つ工夫も忘れていません。最後の謎解きの場面で原題の"The Thin Man"(痩せた男)の意味が分かれば思わず膝を打つことでしょう。
(本筋とは関係ないことですが、原作が1934年に出版されたせいか、現代ではありえない表現が頻繁に登場します。ミミ夫人がヒステリーを起こして倒れる場面などはその典型でしょう)
 ドラマ化もされており、人気のシリーズとなっています。
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